IFRC General Assembly and the Side Event

連盟総会・サイドイベントについて

2011年の連盟総会での決議から4年が経過した2015年12月、ジュネーブで開催された第20回国際赤十字・赤新月社連盟総会に合わせて、原子力緊急事態への備えに関するサイドイベントが開催され、これまでの取り組みや成果などが参加各国に紹介されました。

1.国際赤十字・赤新月社連盟(IFRC)総会の概要


連盟総会における日赤の発言
連盟総会における日赤の発言

 第20回国際赤十字・赤新月社連盟総会(以下、連盟総会)が、世界189の国・地域の赤十字・赤新月各社が参加して2015年12月4日から6日までジュネーブで開催されました。東日本大震災とそれに続く福島第一原子力発電所事故後に開催された2011年の連盟総会において、「原子力事故がもたらす人道的影響に関する決議」が採択されてから4年が経過しました。連盟総会に向けて作成された事務総長報告書の中では、原子力緊急事態に対する備えについての取り組みと成果について触れられています。これに関して日本赤十字社(以下、日赤)は連盟総会の中で、これらの取り組みについて、以下の発言を菅井国際部次長が行いました。

  • 来年チェルノブイリ原子力発電所事故から30年、東京電力福島第一原子力発電所事故から5年を迎えるにあたり、今回の事務総長報告書のSection2「成果と課題」で述べられている原子力災害対策に言及して一言申し上げます。
  • 2011年の第18回国際赤十字・赤新月社連盟総会での原子力事故の人道的影響に対応するための準備に関する決議11/46の具体的成果として、連盟・ICRC・関係国社・関係団体が協力してOperational Guidelines on Nuclear and Radiological Emergenciesを完成させたことを歓迎します。
  • 各国の経済発展に伴って必要とされる世界の電力量は増加することが予想され、将来における世界の原子力発電所建設も今後劇的に増えることが予想されます。これに伴い、原子力災害はその発生頻度は低いものの、その発生の可能性は高まり、一旦発生するとその影響は国境すら越えて広がる大規模な災害となります。残念ながら、放射能災害下において救援活動を行うために十分な準備をしている赤十字・赤新月社は日本赤十字社を含めてほとんどありません。
  • チェルノブイリ原発事故、福島原発事故での教訓を次の原子力災害の際に適切に活かせるように、今回連盟が策定したガイドラインに基づき、各国における赤十字・赤新月社としての対応ガイドラインを策定し、研修を行い、不測の事態に備えることが赤十字・赤新月運動として求められています。
  • 日本赤十字社は、福島原発事故の際に準備不足のために苦い経験をしました。その後、原子力災害における私たち自身の救護ガイドラインを策定し、私たちの福島での経験をデジタル・アーカイブとして共有・発信しています。今後は私たちの知見や経験を必要とする他国での知識普及や準備のために活用したいと考えます。

 連盟総会では、事務総長報告の他、Strategy 2020(2020年に向けての戦略)の中間レビュー、予算案、連盟規約の改定などについて議論がなされました。
 

2.サイドイベントの概要


 連盟総会の開催に先立って、「Faster, Stronger, Better: Strengthening RCRC Emergency Response System」 ~Are we prepared for emerging Risks?~と題したサイドイベントが12月4日に開催され、日赤がスポンサーをつとめました。このサイドイベントの目的は、①チェルノブイリ・福島の原子力災害や最近の主な危機から学んだことを振り返る、②これらの危機に対するグローバル・地域・各国での新たな備えについて紹介する、③連盟決議11/46から達成してきた成果を紹介することです。
 パキスタン赤新月社の会長である、Dr. Saeed Elahi氏の進行で、福島と東京から参加した「わかりやすいプロジェクト」の高校生と大学生によるプレゼンテーションのあと、ベラルーシ赤十字社、日赤、IFRC事務局、OCHA (Office for the Coordination of Humanitarian Affair:国連人道問題調整事務所)の代表者らのパネリストによるプレゼンテーションに続いて、参加者を交えたディスカッションが行われました。
 

3.わかりやすいプロジェクトによるプレゼンテーション


ワークショップの様子
ワークショップの様子
サイドイベントでの発表の様子
サイドイベントでの発表の様子

プレゼンテーション発表の経緯
 わかりやすいプロジェクトは、福島原発事故の国会事故調報告書の作成に関わったメンバーなどを中心に、報告書の内容を一般にわかりやすく伝える目的で発足しました。プロジェクトの活動は赤十字と同じく中立を原則としており、福島や東京の高校生が主体となって報告書の内容を読み解くことを出発点として、社会のシステムについて「考える場」を創り、自分たちの言葉で情報を発信しています。

 わかりやすいプロジェクトのメンバーは、昨年福島で開催された第3回原子力災害対策関係国赤十字社会議で特別プレゼンテーションを行い、福島や東京の子どもたちの目線で感じたことを伝え、国際赤十字・赤新月社に対して、原子力災害への具体的な対策と災害対策へのリーダーシップをとることを訴えました。
 この会議の参加者からの反響を踏まえ、「来る連盟総会において、是非福島の現状や未来への提言を国際社会に訴えてほしい。」という連盟会長でもある日赤社長近衞の強い希望もあり、福島と東京の7名のコアメンバーが中心となって、連盟総会・サイドイベントで発表するための準備を行ってきました。12月に開催されたサイドイベントでは、3名のメンバーが代表としてジュネーブを訪れ、連盟総会出席者など約130名の参加者を前に発表しました。

※国権の最高機関である国会が設置した東京電力福島原子力発電所事故調査委員会(2011年12月8日~2012年7月5日)

プレゼンテーションの内容
The Choice is Ours![PDF](英語のみ)

(以下、原文から抜粋)
 地震とそれをきっかけとして原発事故が発生した時、福島には不安と混乱がありました。
 対照的に東京においては、人々は普通の暮らしをしていて、意図的に事故の影響について考えないようにしているように見えました。そのような時に、わたしたち若い世代も何かをしなければならないと考え、この組織(わかりやすいプロジェクト高校生チーム、以下わかりやすいPJ高校生チーム)がスタートしました。
 わかりやすいPJ高校生チームのコアメンバーは私たちを含め福島の5人、東京の2人の計7人です。私たち3人は、福島での経験から何を学んできたかを皆さんと共有するため、今日ここに来ました。

 最初にわかりやすいプロジェクト国会事故調編が作成したビデオを見て下さい。(ビデオ#1.国会事故調ってなに?#2.事故は防げなかったの?を紹介。リンクをクリックすると、わかりやすいプロジェクトのサイトが開きます。)

 国会事故調の報告書からは、事故は防げたかもしれないことがわかります。でも、何故事故は起こってしまったのでしょうか。その理由を見つけ出すため、私たちは政府や自治体の職員・発電所の作業員・被災者などになってロールプレイングを行いました。そこでわかったことは、私たちを含め、人は組織の利益を優先させ自分の立場や責任に縛られ、自分の正直な意見を言わない傾向になるということです。
どのようにしたら、このような状況に打ち勝つことができるのでしょうか?私たちは「対話」がこの問題の手がかりだと思います。ここで言う「対話」とは、自分の立場や役割に関わらず自分の正直な意見を出し合うことです。私たちは、多くの人を招いて何回ものワークショップを行いました。そして、このプロセスを通じて自分自身が良い方向に変わってきたことに気づきました。心を開き、考えを共有することで、私たちは災害の恐怖や怒りを徐々に克服できるようになりました。

 正直に話すことは決して簡単ではありません。しかし私たちは、今回の発見が将来の災害がどこかで起こった場合の助けになると信じ、これからも学び続けて行きたいと思います。
 赤十字・赤新月社のみなさん。共に世の中を変えて行きましょう。皆さんのスローガン「Our World, Your Move」のように。選ぶのは私たち自身です。

プレゼンテーションを終えて
 2015年12月下旬、連盟総会サイドイベントでのプレゼンテーション作成に参加したチームメンバーが集まり、ジュネーブ会議参加報告会を行いました。プレゼンテーションの作成過程やこれまでのわかりやすいプロジェクトで取り組んできたイベントでの対話も振り返り、ジュネーブでの発見を超えた対話が展開されました。わかりやすいプロジェクトから寄稿いただいた振り返りレポート[PDF]はこちらをご覧ください
 

4.パネリストによるプレゼンテーション


プレゼンテーションの様子
プレゼンテーションの様子

 パネリストによるプレゼンテーションは、パキスタン赤新月社のDr. Saeed Elahi会長の司会で始まりました。Dr. Elahi会長は、福島とベルリンで行われたIFRCのCBRN緊急事態対策等関係国会議に参加しています。
 最初に司会者から、CBRN危機は人的ミスや外部からの攻撃、自然災害などが要因になり発生する。危機の際には多くの人を守る必要があり、より迅速な・より堅牢な・より良い対応が求められると説明がありました。
 プレゼンテーションでは、日本の「わかりやすいプロジェクト」によるプレゼンテーションに続き、ベラルーシ赤十字社、日本赤十字社、IFRC、国連人道問題調整事務所(OCHA)の代表から発表があり、その後全体で討議が行われました。

ベラルーシ赤十字社 Viktor Kolbanov事務総長からの発表
ベラルーシ赤十字社のプレゼンテーション[PDF](英語のみ)
 Kolbanov事務総長からは、チェルノブイリ原発事故によりベラルーシが受けた被害と現状について説明がありました。
 CHARP(Chernobyl Humanitarian Assistance and Rehabilitation Programme:チェルノブイリ人道支援プログラム)は1990年よりIFRCの支援を受けてベラルーシ、ウクライナ、ロシアで始まりました。事故当時14歳以下だった子どもたちへの甲状腺がんのスクリーニングの実施や他のがんへの検診、病気の予防に対するキャンペーンなどにより、健康への影響は非常に少なくなってきました。さらに、こころのケアの特別チームの創設、汚染地域に住む住民への食糧や生活品の支給などを行ってきました。都市から遠く離れた住民の診断には、MDL(Mobile Diagnostic Laboratory:移動診断所)が活用されました。CHARPは大きな成果を上げてきましたが、資金やリソースの不足で縮小されてきています。
 今も国境では原子力発電所が稼働しているので、リスクはなくなっていません。ボランティアへの教育や資材の供給に対するパートナー国の支援により、重大な原子力事故に対する対応能力を強化して行きたいと思っています。

日本赤十字社 菅井 智国際部次長からの発表
日本赤十字社のプレゼンテーション[PDF](英語のみ)
 菅井次長からは、日赤がIFRCと連携しながら取り組んできたことおよび、直面している課題について説明がありました。
 日赤は、福島第一原発事故が発生した際に十分な備えができていませんでした。そのため、原子力災害に対して備えるために、日赤としての「原子力災害における救護活動ガイドライン」を作成し、赤十字原子力災害情報センターにデジタルアーカイブを立ち上げ、スタッフやボランティアに対し放射線状況下で安全に活動するための独自の研修システムを導入したことを説明しました。一方、取り組むべき課題としては、スタッフやボランティアが放射線や原子力災害に関する知識を常に維持し続けることや、安全性や放射線レベルのリスクについての被災者とのリスクコミュニケーションのあり方、原子力災害が発生した場合の医療機関の避難などをあげました。日赤としてのゴールは、放射線・原子力災害へ備える取組みを一般災害へのマネジメントシステムに組み込むことにより、常に取り組みを可能とすることであるとしています。

IFRC災害危機管理部 部長 Simon Eccleshall氏からの発表
 Eccleshall氏は、このサイドイベントを通して問われているのは、「国際赤十字は技術的災害や新たな脅威に対して備えているか」ということだと指摘しました。また、災害対応に言及する場合、これらの災害に対する事前の備え・対応・復興の関連性についても考えることが必須であり、コミュニティーを回復させ強くするために必要な備えを行っておくことが、赤十字のスタッフやボランティアが関わりを持ち、変化をもたらすことのできる領域だと指摘しました。
 Eccleshall氏は、2011年のIFRC総会での「原子力事故がもたらす人道的影響に関する決議」を受けてこれまでIFRCが成し遂げた成果として、原子力・放射線災害における事前対策および応急対応ガイドラインの作成、能力開発のためのE-ラーニングツールの開発などをあげました。

OCHA インタークラスター・コーディネーションセクション  Rene Nijenhuis氏からの発表
 Nijehuis氏は、OCHAがUNEP(United Nations Environment Programme:国連環境計画)と協力して環境における緊急事態に取り組んできた様々な経験をもとに、サイドイベントの参加者に3つのメッセージを伝えました。
(1)CBRNや技術危機に対しては調整が重要である。過去20-30年間に、あらゆる種類の緊急事態に対して専門的なツールやサービスが開発されてきた。それらの多くは、様々な枠組みにより世界で調停や支援が行われてきた。このことが対応のギャップにつながるため、調整のための取り組みと介入が必要である。
(2)事前の備えに対してさらに投資を行う必要がある。リスクアセスメントにおいて、起こることが想像しにくい出来事については忘れられやすい傾向にある。しかし、そのようなエマージングリスク(新興リスク)が実際に発生した場合には、とてつもなく大きな影響が生じるため、システム全体を変える必要がある。発生頻度は低いが大きな影響が生じる出来事に、より注意を向けるべきである。
(3)協力関係の強化が必要である。一般に、化学・生物・原子力事故での人道支援についてはあまり知られていない。しかし、これらの事故が発生すると、避難・医療・食料・水・避難所が必要になるなど、深刻な人道的影響が生じる。同時に私たちは、どの場所が安全で、何をすると安全かなどを知らなければならない。このため、技術分野と人道分野の人達とのより強い協力関係が必要となる。
 

5.ディスカッション


ディスカッションの様子
ディスカッションの様子

プレゼンテーションに続いて議長から以下の質問事項が提示されました。

質問1:仙台で開催された国連防災会議での枠組み(仙台フレームワーク)を受けて、減災への取り組みは規模の大小・発生頻度・突発性か徐々に進行するかを問わず、自然災害や人災による危機や環境・技術・生物によるリスクにも対応して行くことになる。我々赤十字は、災害リスク低減にどのように貢献して行くのか。

質問2:技術災害やCBRNリスクに対して赤十字各社の役割は何か。赤十字としてこれらのリスクによる人道的な影響に対してどのように備えるべきか。

参加者からは、原子力災害を含むCBRN緊急事態への取り組みの重要性・必要性について次のような発言がありました。

  • CBRN災害において、我々は赤十字内でどのように準備し、対応能力の構築を行っていけばよいのだろうか。そして政府とどのように協力していけばよいのだろうか。
  • 日赤からの発表にもあった救護活動時の赤十字スタッフとボランティアの安全(被ばく放射線量の基準)については、社会や被災者による災害時の赤十字活動の認知・受け入れにも関わってくることから、備えの段階で議論すべきである。災害が発生してから議論するのでは遅すぎる。
  • 我々はどのようなCBRN災害に対して対応すべきなのか。赤十字はいつもコミュニティーに近い位置にいるべきなので費用のかかるレベルの高いチームを作るよりは、より多くの人々を対象にした規模の小さな災害への事前準備を考えるべきではないか。

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