第4回赤十字原子力災害セミナー開催報告

2016/04/07

第4回赤十字原子力災害セミナー

プロローグ子ども支援浪江町民の健康調査「忘れない」の先へワークショップ

プロローグ
子ども支援
浪江町民の健康調査
「忘れない」の先へ
ワークショップ

セミナー概要


 東日本大震災・福島第一原子力発電所事故から5年を迎える2016年3月、日本赤十字社で展開されている「私たちは、忘れない。」~未来につなげる復興支援プロジェクト~の一環として、第4回赤十字原子力災害セミナーが開催されました。本セミナーでは、福島県の現状や課題から自分たちの身近にある課題を探り、「未来に向かって何ができるのか」について講演とワークショップを通して考えました。

  • 開催日時:2016年3月19日(土) 12:50 – 17:30
  • 開催場所:日本赤十字社別館 大会議室
  • 参加者:35名、オブザーバー:15名
  • 開催日時:2016年3月19日(土)12:50 – 17:30
  • 開催場所:日本赤十字社別館 大会議室
  • 参 加 者 :35名、オブザーバー:15名

開催内容


 第1部 講演

第1部 講演

プロローグ 「今日、みなさんと考えたいこと」
  ~ふくしまで、いま、何が起きているのか~
プロローグ

「今日、みなさんと考えたいこと」
~ふくしまで、いま、何が起きているのか~

福島大学 うつくしまふくしま未来支援センター
客員准教授 天野 和彦 氏(あまの かずひこ)

福島大学大学院地域政策科学研究科修了。福島県庁職員として、障害児教育、生涯教育、男女共同参画などに携わる。2011年3月11日に発生した東日本大震災においては、県内最大規模といわれた「ビッグパレットふくしま避難所」の県庁運営支援チームの責任者を務める。その後も、「おだがいさまセンター長(2014年3月まで)」として、仮設住宅・借り上げ住宅・県外避難者の支援に携わる。2012年4月より、福島大学うつくしまふくしま未来支援センター特任准教授。2015年4月より、みんぷくネット復興支援プロデューサー。5月より福島大学うつくしまふくしま未来支援センター客員准教授。被災者の生活支援、コミュニティ形成、要援護者サポート、ボランティア組織の連携、震災関連死などの調査・研究や現場での支援にあたっている。

 福島大学の天野客員准教授からは、プロローグとして「今日、みなさんと考えたいこと」と題して講演をいただきました。

 福島県においては、福島第一原子力発電所での事故が収束していない中で、帰還困難区域への帰還の見通しが立たず、住民の生活の先が見えない状況は5年経っても変わっていません。
 長引く避難生活により、将来に希望が持てずに自ら命を絶ったり、持病が悪化して死亡に至ったりする「震災関連死」の数は、直接死の数を上回っています。県外に避難している人の数も43,270人(2016年1月14日現在)もいて、岩手県(1,474人)・宮城県(6,444人)を大幅に上回っています。また避難を繰り返す過程でコミュニティが崩壊してしまった地域もあります。
 そのような状況の中で、被災地における「交流」の場の提供と「自治」活動の促進を横糸として、「いのちを守る」活動と「生きがいと居場所づくり」の活動を縦糸として住民間のつながる力を織りなし、住民の命を守るコミュニティの形成が求められます。
 コミュニティが崩壊して人がバラバラになって寂しいと人は死ぬという現象は、全国でも同じ課題であり、福島では災害によりそれが顕在化したと言えます。このため、人と人がつながるしくみを全国で作りだしていく必要があると強く感じています。

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(プロローグ~ワークショップ~エピローグまでのプレゼンテーション)
(プロローグ~ワークショップ~エピローグまでの
プレゼンテーション)
講 演 1 子ども支援を通して見えてきたこと -教育支援の充実を目指して-
講 演 1

子ども支援を通して見えてきたこと
-教育支援の充実を目指して-

福島大学うつくしまふくしま未来支援センター
こども・若者支援部門 こども支援担当
特任教授 本多 環 氏(ほんだ たまき)

大阪府大阪市生まれ。宮城教育大学卒業。福島県公立小学校教員中に福島大学大学院教育学研究科修了。福島大学附属小学校勤務中、学校内に少人数支援室「ほっとルーム」を開室。「困り感」を抱く子どもや保護者に対し、課題解決的支援を行う。うつくしまふくしま未来支援センターでは、震災の影響により「困り感」を抱える子どもたちが自分らしく主体的に生きることができるような支援を行うことを目的とし、学校教育力・地域教育力・家庭教育力の向上を目指して様々な支援活動を行う。

 福島大学の本多特任教授からは、「子ども支援を通して見えてきたこと」と題して福島の子どもたちが抱える課題について講演いただきました。

 うつくしまふくしま未来支援センターこども支援担当では、震災の影響により「困り感」を抱える子どもたちが自分らしく主体的に生きることができるような支援をしています。

※「困り感」とは、嫌な思いや苦しい思いをしながらも、それを自分だけではうまく解決できず、どうしてよいのか分からない状態にあるときに、本人が抱く感情

※「困り感」とは、嫌な思いや苦しい思いをしながらも、それを自分だけではうまく解決できず、どうしてよいのか分からない状態にあるときに、本人が抱く感情

 避難を強いられた子どもたちは、転校することによる「学校環境の変化」や、転居することによる「地域環境の変化」、家族の分断による「家庭環境の変化」が生じ、一人一人の子どもたちが様々な困り感を抱えました。これらの困り感が絡み合い、子どもたちのストレスの増大や自己肯定感の低下につながりました。さらに、不安から生じる大人たちのストレスが絡み合い、子どもたちのストレスや不安はとても大きなものとなりました。これが長期間継続することで問題が多様化、深刻化(問題行動化)し、子どもたちの「生きる力」の低下にもつながり、「心のケア」だけでは解決できない状況になっています。
 支援を考えるときには、「福島県の子ども」という大きな枠組みで捉えるのではなく、「外遊びが出来なくて体力が低下している子ども」に対する支援というように、子どもたちは「どのような課題を抱え」「どのような力が低下しているのか」を一人一人に対して見極め、「生きる力」を高めるための課題解決的な支援が必要になります。

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講 演 2 いわき市内に避難している浪江町民の健康調査支援事業
  -人のつながりとコミュニティ-
講 演 2

いわき市内に避難している浪江町民の健康調査支援事業
-人のつながりとコミュニティ-

日本赤十字看護大学 大学院博士課程教育災害看護
専任講師 内木 美恵 氏(ないき みえ)

岐阜県高山市生まれ。高山赤十字病院に助産師として勤務する傍ら、1993年にカンボジア国境で紛争地医療に従事したのを皮切りに、紛争地・災害地の緊急・長期派遣を6回程経験、2009年からはウガンダ母子保健事業の企画など支援計画を行うなど、被災者の健康支援の専門家として活動。この間、大森赤十字病院、葛飾産院で助産師、看護管理者として勤務。その後、日本赤十字看護大学共同災害看護学専攻の専任教員、日本赤十字看護大学大学院後期博士課程終了。2012年1月から、日本赤十字社より厚生労働省の事業である、いわき市に避難した双葉郡の原発災害被災者への保健サービスの提供とその過程に関する調査・検討を実施。その後、日本赤十字社によるいわき市に避難した浪江町民の健康調査支援事業の実施責任者として企画・運営を行っている。

 日本赤十字看護大学の内木講師からは、「いわき市内に避難している浪江町民の健康調査支援事業」について紹介いただきました。

 いわき市に避難した浪江町民に対して保健サービスが行きわたっていない状況に対して、何かできないかという依頼が厚生労働省からありました。何かしなければならないという認識はあったが前例がないという状況で、組織として何ができるかを考え、関係者のコンセンサスを得ながら実現にこぎつけました。事業内容は、いわき市に避難した全浪江町民に対して訪問調査を行うことと、「サロン」での交流会、ヨガ教室の開催などで、2012年9月より活動を開始しました。
 健康調査を通して見えてきたこととしては、震災後3年目になると自宅を購入する人が増加した一方で、病気については故郷へ帰る見通しが立たないことによると思われる「不眠・不安・イライラ」が増加し、「生き方・暮らし方」に対する悩みを持っている人が非常に多い(40%以上)ことがあげられます。地域のイベントに参加した人は浪江町に住んでいた時には68%だったのが、いわき市へ避難して減少(2年目は4%、3年目は24%)し、地域コミュニティの形成がなかなかできていないことがわかります。避難を受け入れた側の人たちの何気ない言葉が、無意識のうちに被災者が家に閉じこもることにつながってしまう事もありました。そのような中でも、被災者は少しでも心が癒されると地域に溶け込むよう努力する行動が起こせる事例も見られます。自分たちに何ができるかを考える際には、避難者を受け入れる側にも準備が必要だということも考慮に入れて考えていただければと思いました。

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講 演 3 「忘れない」の先へ ジブンXミライDialogue
講 演 3

「忘れない」の先へ ジブンXミライDialogue

わかりやすいプロジェクト(国会事故調編)高校生メンバー

福島第一原子力発電所事故の国会事故調報告書の作成に関わったメンバーや社会人・大学生が中心となり、報告書の内容を一般にわかりやすく発信しようという目的で、2012年9月に「わかりやすいプロジェクト (国会事故調編)」が立ち上がる。「互いの立ち位置は問わない」「『なぜ』を追究する」「『対話型』の場の共有をめざす」の3つのグランドルールをもとに活動。わかりやすいプロジェクトの学生(高校生、大学生)で構成されたメンバーが今回プレゼンテーションを行った。

 最後に、わかりやすいプロジェクトの高校生メンバーが、「『忘れない』の先へ ジブンXミライDialogue」と題したプレゼンテーションを行いました。

 プレゼンテーションのパート1では、今回参加した福島県チーム、首都圏チーム、灘チームの地域ごとの活動を紹介し、パート2では3チーム合同の対話によって得られた気づきについて紹介します。
 福島県チームは、国会事故調報告を読み、実際に現地に足を運んでお話を伺う等の活動を通じ、災害時に何が起こったのか、今どのような実態なのかの理解に努めてきました。首都圏チームは異なる世代を交えての「対話」活動の一環として「原子力災害における救護」というテーマから東日本大震災を振り返りました。灘高校では2012年から「東北合宿」を行っており、そこで学んだ「東北」「震災」のことを周りに知ってもらうことを目的に「灘校東北企画」を立ち上げ活動してきました。
 これらの3チーム合同で確認した地域・時間経過による着眼点の違いを出発点に「対話」を行いました。その結果、発災後の事態に対する備えや対策に注目するだけではなく、過去の災害を”事前”と”事後”の両面から見直すことが大事だと考えました。そうすることで初めて災害大国の日本で次の災害の当事者として災害と上手な付き合い方を考えることができるのではないかと思いました。災害は発生した際、より良い判断をするためには、過去の教訓を日常から勉強しておくことと、限られた情報で瞬時に正しく判断する力を鍛えておくことが大切です。その上で命を守るための現状改善が非常に重要です。

 私たち高校生ができることとして、これまでの災害を知らない子どもたちと一緒に訓練やゲームを行うということがあります。そして、その中から「反省」を得てそれを新たな「教訓」へとつなげていくことが重要です。災害を今のままで「終わり」にしないで「未来」につなげていくためにも、私たちはこれからも考え視野を広げて行きます。

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 第2部 ワークショップ

第2部 ワークショップ

 ワークショップでは天野和彦氏をファシリテーターとして、参加者が5つのチームに分かれ「たったいまからできること」をテーマに行われました。
 第1部の講演を通して参加者が気づいた課題は『被災地だけに言えることではなく、全国どこにでもある課題が震災により顕在化しただけではないか』です。そこで、①自分たちの地域やコミュニティについて東日本大震災の教訓から活かせることは何かを考え、②そこから地域の仕組み(社会システム)に活かしていくアイディアをチームで考え、③他のチームのアイディアやコメンテーターからのフィードバックを踏まえて、アイディアを練り上げるという手順で行われました。

 各チームから出された地域の仕組みのアイディアとしては、「被災地の教訓や危機感を共通意識としてコミュニティを形成する」、「自分たちが主体の町内会を単位としたコミュニティを作る」、「地域との接点となるイベントなどを開催して住民にアプローチする」、「必ずしも地域にいる時に被災するとは限らないのでその場にいる人を受け入れる寛容性を持つ」などが出されました。一方で、「コミュニティへの帰属意識が少ない」、「世代間のつながりが少ない」などのアイディアを実現するための課題や障壁も共有されました。

 これらを踏まえ、参加者は「私たちは○○○という仕組みを作ります。この仕組みの狙いは△△△です。」という形のプラン作りに取り組み、以下のようなアイディアが各チームから発表されました。

  • 独居高齢者のコミュニティを作ります。その狙いは、孤独死・孤立を防ぐことです。
  • 「楽しい避難訓練による交流」という仕組みを作ります。その狙いは、参加しやすくすることです。
  • 正しい情報発信の仕組みを作ります。その狙いは、住民が参加しつながりを持つための情報を提供することです。
  • 日常(普段の生活での地元との接点)・非日常(地元でのイベントなどの機会)のメリットの循環を作ります。その狙いは、人と人のつながりを作ることです。
  • 情報共有の仕組み・場を作ります。その狙いは、誰でも受け入れる寛容さを培うことです。
  • 独居高齢者のコミュニティを作ります。その狙いは、孤独死・孤立を防ぐことです。
  • 「楽しい避難訓練による交流」という仕組みを作ります。その狙いは、参加しやすくすることです。
  • 正しい情報発信の仕組みを作ります。その狙いは、住民が参加しつながりを持つための情報を提供することです。
  • 日常(普段の生活での地元との接点)・非日常(地元でのイベントなどの機会)のメリットの循環を作ります。その狙いは、人と人のつながりを作ることです。
  • 情報共有の仕組み・場を作ります。その狙いは、誰でも受け入れる寛容さを培うことです。

» ワークショップの詳細はこちらをご覧ください。

» ワークショップの詳細は
こちらをご覧ください。

エピローグ

 災害について天野氏は、「災害時には普段準備している以上のことは決してできない。また、災害後新たな問題が発生するのではなく、それまでの地域の課題が顕在化するだけである。災害に強いまちとは人と人がつながっているまちであり、したがって普段からのつながりを大切にするまちづくりが、防災のまちづくりにつながる。」と説明がありました。

 最後に、「自分がたったいまからできること」を参加者一人一人が付箋紙に書いてボードに貼り付け、それをバックに参加者で写真を撮ってセミナーを締めくくりました。

 今回のセミナーでは、高校生・大学生・赤十字ボランティア・日赤職員など、全国各地から参加いただき熱心な議論が行われました。今後このような議論の輪が広がることが期待されます。


過去のセミナー情報
2016年
2014年
2013年