平成28年度 第2回日本赤十字社
緊急被ばく医療アドバイザー会議について

2017/01/31

 日本赤十字社(以下、日赤)は、2016年12月12日~13日の日程で「平成28年度第2回日本赤十字社緊急被ばく医療アドバイザー会議」を以下のとおり開催しました。

1. 緊急被ばく医療アドバイザー会議の背景


 日赤は、福島第一原発事故の教訓を踏まえ、2015年3月「原子力災害における救護活動ガイドライン」(以下、ガイドライン)を策定しました。また、将来起こるかもしれない原子力災害に備えるため、全国の支部・施設に個人線量計等の放射線防護資機材を整備するとともに、救護班を対象とした原子力災害対応基礎研修会も開催しています。
 また、ガイドライン策定の経過で明らかになった課題の解決や、ガイドラインに記載された方策の具現化のために、日赤の緊急被ばく医療指定機関等から委嘱されたアドバイザーが集まって、定期的に会議を開催しています。
 緊急被ばく医療アドバイザー会議と、これまでの開催内容についてはこちらをご覧ください。

2. 第2回緊急被ばく医療アドバイザー会議プログラム


 プログラムの詳細は「平成28年度第2回緊急被ばく医療アドバイザー会議議事次第」[PDF]をご覧ください。

3. 会議の概要


 セッション1(情報共有)

セッション1(情報共有)

 原子力災害情報センターにおける最近の取り組み
 標記について、赤十字原子力災害情報センター 山澤センター長より報告しました。

【概 要】

  • 2016年11月9日、日赤の原子力災害対応について、全社的に取り組む必要のある課題等を検討し必要な対応策を講じることを目的として、第1回原子力災害対策検討委員会を開催した。委員会には茨城県周辺県の支部、病院、緊急被ばく医療アドバイザー等が参加し、水戸赤十字病院の施設避難計画をモデルケースとした被災地赤十字施設に対する病院支援を協議した。行政の補完としての病院避難に対する支援*については理解を得ており、今後は具体的な支援体制の構築について協議を進めていく。
  • 原子力災害情報センター発足から3年という節目を迎えることから、事業の振り返り、今後の課題等を整理するため、活動評価報告書を取りまとめている。

日赤の知見を発表する名二・駒井先生
(CBRNワークショップ於ウィーン)

日赤の知見を発表する名二・駒井先生(CBRNワークショップ於ウィーン)
  • 今年度は、アジア大洋州地域災害対策会議(於韓国)とCBRNワークショップ(於ウィーン)に職員等を講師として派遣している。特に、ウィーンのCBRNワークショップには名古屋第二赤十字病院・駒井先生にご協力いただき、日赤の福島での経験や知見を伝えていただいた。
  • 世界的に原発が増設傾向にある中、日赤に対する関心や期待は高まっており、各国からは、緊急被ばく医療アドバイザー等に自国に来ていただき、原子力災害への取組みについて指導していただけないかという要望も出ている。国際貢献を日赤の今後の強みにできればと考えているので、積極的な協力をお願いしたい。
  • 佐賀県原子力防災訓練において、二次被ばく医療機関である唐津赤十字病院の被ばく傷病者受入訓練を視察した。緊急被ばく医療チームには若手主事も加えられており、必要な研修等を受け正しい知識を習得することで、年齢や職種等にかかわらずだれでも緊急被ばく医療に携わることができるというモデルになると思われる。

 セッション2(検討事項)

セッション2(検討事項)

 赤十字施設の施設避難
 標記について、赤十字原子力災害情報センター 山澤センター長より説明しました。

(1)被災地赤十字病院への支援スタッフの派遣
(1)被災地赤十字病院への支援スタッフの派遣

【概 要】

  • 福島の実例を参考に策定した想定シナリオに基づき、UPZ圏内に所在する日赤病院の施設避難にかかる具体的な支援体制を検討したい。
  • 想定シナリオでは、震度7強の地震発生による原子力発電施設の全面緊急事態を受け、UPZ圏内にある病院は発災から5日後に避難を実施するとしている。これにより、当該病院を支援するために、全国の緊急被ばく医療指定機関等の日赤病院のスタッフが支援に入る期間は、地震発生当日から避難完了までの約6日間として、支援スタッフの被ばく線量限度と活動地域について考え方を整理したい。

【意見交換】

  • UPZ圏内の病院に支援に入るスタッフの被ばく線量限度については、線量限度を上げる検討が必要との考えもあるが、当面は一般の活動従事者の基準を基本として、日赤全体に現在の被ばく線量を含む原子力災害への体制や意識がしっかりと根付いてから、必要があれば改めて検討するのがよい。
  • 病院支援の必要性について、病院の施設長、職員等への原子力災害対応への啓蒙を継続し、理解を深めてもらうことが最も重要であると考える。
  • 放射線技師が支援スタッフの被ばく線量も管理する体制が必要である。管轄は本社(救護・福祉部)と想定している。また、支援スタッフの移動手段について本社が確保する必要がある。
(2)近隣赤十字病院によるUPZ圏内赤十字病院からの患者受入れ
(2)近隣赤十字病院によるUPZ圏内赤十字病院からの患者受入れ

【概 要】

  • UPZ圏内の病院が避難する場合の、近隣赤十字病院による患者受入れに必要な体制を検討する。
  • 第1回原子力災害対策検討委員会で、東日本大震災における福島県からの患者受入れの実際例として、当時自治医科大学附属病院長であった芳賀赤十字病院安田是和院長からお話をいただいたので共有したい。

震災当時を振り返る芳賀赤十字病院安田院長
(第1回原子力災害対策検討委員会)

震災当時を振り返る芳賀赤十字病院安田院長(第1回原子力災害対策検討委員会)
  • 【一部抜粋】
  • 震災当時、福島からの避難者の対応への準備のため救急部と協力し、災害テントを玄関前に設置した。病院に放射線の専門家がいたので、入院基準(放射線量測定、除染シャワー、着替えなどの手順確認)を設定でき、大学内の放射線量を測定・開示し全職員にも問題がないことを説明した。それでも、病棟医療スタッフの困惑、一般職員の被ばくへの不安感が生じたが、なんとか乗り切れた。この経験に基づき、受入病院として、日常からの全職員への原子力災害への認識・教育、および、放射線の専門家の助言体制等が必要である。
  • この実例を受け、受入病院側からは、事前の教育研修もさることながら、受入時には緊急被ばく医療アドバイザー等の助言等の協力体制が必要との要望があった。

【意見交換】

  • 病院の避難先を決めるのは行政であり、受入先となった病院は、自分たちで安全かどうかを判断し、院内のコンセンサスを得てから患者を受入れることが重要である。
  • 緊急被ばく医療指定機関以外の病院において原子力災害対応時のキーパーソンを育成するには、まずは社会医療部長や災害医療コーディネーター等を対象に研修をする方が効果的である。
  • また、患者等の受入先となる病院の教育・支援についても、ブロック単位で実施される基礎研修会を活用する案も検討したい。
  • 県の災害医療コーディネーターも巻き込んでいく体制構築が望ましい。病院避難に伴う患者受入れは、行政の活動を補完するものであるという認識の上で、赤十字も対応することを行政や地域の病院にも理解してもらう必要がある。
  • 少人数を受入れる病院に緊急被ばく医療アドバイザーを配置するのは、原子力災害時の大切なリソースを有効活用するとは言いがたい。このことからも、受入病院側も人材を育成しておくことが必要である。

【総 括】

  • 将来的に、国が整備している原子力災害拠点病院の派遣チームの行動様式等が明らかになってきた段階で、日赤もある程度制限のある活動地域の中での活動を検討していく必要がある。
  • 現状は、警戒区域等の外で救護活動を実施する、UPZ圏内の赤十字病院に支援スタッフを送る、UPZ圏内の病院から患者を受け入れるための準備を行うという3点について、今後施設内で情報を共有する。

 セッション3(検討事項)

セッション3(検討事項)

 原子力災害における被災者コミュニケーション
 標記について、赤十字原子力災害情報センター 太田主事が説明しました。

【概 要】

 原子力災害時の被災者とのコミュニケーションに関する検討は、「原子力災害における救護活動ガイドライン」策定のための研究会で出された課題の一つである「災害時のコミュニケーション」に対応するものである。原子力災害時は、原子力災害特有の心理状況やストレス反応が起こる可能性があることから、被災者に接する際はより丁寧な対応が求められる。このような背景を理解した上で、救護班の本来の目的である医療救護活動を支障なく行うための、救護班を対象とした原子力災害時の被災者とのコミュニケーションの手引き(案)を作成することとし、この具体的な内容について協議した。

【意見交換】

  • 初動の救護班は、およそ3日程度で交代し、最終的には撤収する。被災者の方が安心されるよう、引継ぎおよび撤収時の、日赤以外の団体や地域との連携なども念頭に入れた内容とする。
  • コミュニケーションを意識しすぎて不必要に被災者とやりとりを行うのではなく、傾聴を主体とし、質問に対しては公的に得られた情報の提供を主体とする。
  • 被災者コミュニケーションという単語は確立されていない。手引き案作成時は、全体を通して被災者が不快、あるいは不安に感じる言い回しなどがないか表現に配慮したい。
  • 被災者とのコミュニケーションというテーマは、できれば基礎研修会講義の1コマとして加えたい。このため、成果物は「原子力災害における救護活動マニュアル」[PDF]に追加することを想定している。

 セッション4(報告)

セッション4(報告)

(1)唐津赤十字病院移転における患者搬送について
(1)唐津赤十字病院移転における患者搬送について

 新病院移転のため入院患者の搬送を実施した、唐津赤十字病院 医療社会事業部長兼医療技術部長兼第二外科部副部長の酒井正先生から、搬送の実際について説明をいただいた。


福祉車両による患者搬送

福祉車両による患者搬送

【概 要】

 新病院への移転にあたり、転院調整(1か月前)、定期手術中止(1週間前)、救急外来停止(4日前)とし、搬送患者数を100名に調整した。186名の医療・一般事務職員等が、旧病院病棟班、旧病院内移送班、車両班、その他交通整理等の担当に分かれ、移動に当たっては事前シミュレーションを実施するなど体制を整えた。搬送車両は、救急車(寝台車 9台(1台に患者1人)、福祉車両 5台(1台に患者2人)、バス 2台(1台に患者5人)を準備し、患者リストとタイムテーブルに沿って、3時間半程度で新病院への搬送が完了した。移送にあたり、各患者様には移転にあたり同意書に確認・署名をいただいた。

【意見交換】

  • 実際に唐津赤十字病院が病院避難となった場合、災害時の制約のある状況を考慮すると、患者が150人いる場合は、救急車4台を確保し、毎日12時間稼働して1日に10~20人の患者が搬送できたとして、避難には1週間前後かかると想定される。
(2)平成28年度佐賀県原子力防災訓練-被ばく傷病者受入訓練-
(2)平成28年度佐賀県原子力防災訓練-被ばく傷病者受入訓練-

 標記について、唐津赤十字病院 放射線技術課 技術第一係長 坂井 征一郎先生から報告をいただいた。(平成28年度佐賀県原子力防災訓練については、こちらもご覧ください。)

【概 要】

 新病院に併設された佐賀県緊急時医療施設(経費は県、管理は唐津赤十字病院)に、原子力発電所作業員の負傷者1名を受入れるため、施設養生、防護服着用・脱衣、搬送・搬出、除染処置等、必要な被ばく医療処置を行う訓練を実施した。訓練の反省から、新施設での迅速な養生と防護服脱衣の手順の理解、また、除染室が病院と別棟となるため医療材料等の追加、補充等の対応方法などが今後の検討課題として挙げられる。

【意見交換】

  • 緊急被ばく医療アドバイザーの設置や原子力災害基礎研修会での机上訓練が整ってきたので、今後は実動訓練を実施する必要がある。

 セッション5(報告)

セッション5(報告)

 第4ブロック原子力災害対応基礎研修会の実施報告および第6ブロック同研修会の福岡開催に向けて
 標記について、赤十字原子力災害情報センター 山澤センター長が説明しました。

  • 現在は研修会のスケジュールが非常にタイトであること、特にグループワークの時間が不足しており、次年度からは研修開始時間を早め余裕のある研修会としたい。

【意見交換】

  • 活動期間中の累積線量を図るグループワークでは、方程式を解くような印象があった。具体的なモデルコースを複数準備し、これで計算をするとイメージしやすい。

【その他】

  • 日赤救護班のスクリーニング活動実施の可否については、救護班要員のキャパシティ、必要な資機材、行政との役割分担などを含めて協議を行った。

*原発立地道府県・市町村の地域防災計画・避難計画において、UPZ圏内に位置する病院の入院患者・社会福祉施設の入所者等の避難先が予め定められている。当該避難先だけでは避難が困難な場合は、行政を通じ近隣の病院等に患者等の受け入れについて要請がある可能性を考慮し日赤として受入れ体制の整備を検討している。