平成28年度 第1回日本赤十字社
緊急被ばく医療アドバイザー会議について

2016/09/16

 日本赤十字社(以下、日赤)は、2016年7月21日~22日の日程で「平成28年度第1回日本赤十字社緊急被ばく医療アドバイザー会議」を開催しました。会議には、各赤十字医療施設において「緊急被ばく医療アドバイザー」(以下、アドバイザー)に委嘱されている医師や診療放射線技師等が参加し、また、緊急被ばく医療各分野の専門家を講師として招き、日赤の原子力災害における救護体制の構築について話し合いました。

1. 緊急被ばく医療アドバイザー会議の背景


 日赤は、福島第一原発事故の教訓を踏まえ、2015年3月「原子力災害における救護活動ガイドライン」(以下、ガイドライン)を策定しました。また、将来起こるかもしれない原子力災害に備えるため、全国の支部・施設に個人線量計等の放射線防護資機材を整備するとともに、救護班を対象とした原子力災害対応基礎研修会も開催しています。
 また、ガイドライン策定の経過で明らかになった課題の解決や、ガイドラインに記載された方策の具現化のために、日赤の緊急被ばく医療指定機関等から委嘱されたアドバイザーが集まって、定期的に会議を開催しています。
 平成27年度の開催内容についてはこちらをご覧ください。

平成27年度第1回緊急被ばく医療アドバイザー会議
平成27年度第2回緊急被ばく医療アドバイザー会議


緊急被ばく医療アドバイザー会議 会場の様子

緊急被ばく医療アドバイザー会議 会場の様子

 ガイドライン中でアドバイザーは、本社や支部の災害対策本部で原子力災害時の活動展開方針を決める際の助言や、活動従事者の被ばく線量の管理などを担うとされています。
 平成28年度第1回目となる今回の会議では、前回の会議から引き続き原子力災害時の施設における屋内退避や施設避難に必要な準備、日赤としての被災者コミュニケーションの構築方法などについて活発な話し合いが持たれました。

2. 第1回緊急被ばく医療アドバイザー会議プログラム


 プログラムの詳細は「平成28年度第1回緊急被ばく医療アドバイザー会議議事次第」[PDF]をご覧ください。

3. 会議の概要


 セッション1(意見交換)

セッション1(意見交換)

 原子力災害情報センターにおける最近の取り組み
 標記について、赤十字原子力災害情報センター 山澤センター長より報告しました。

【概 要】

  • これまでのアドバイザー会議の協議を反映して、「原子力災害における救護活動マニュアル」を改訂した。現在アーカイブでの公開を準備しているほか、原子力災害対応基礎研修会資料の英語化を進めており、各国赤十字姉妹社・各関係機関の参考資料として公開することを計画している。
  • また、原子力災害の被災地に居住する職員やその家族の安全管理を目的として、「原子力災害時の被災地に居住する職員等の安全管理に関する運用手引き」[PDF]を作成したほか、「原子力災害時にあなたとあなたの家族の健康を守るために」[PDF]も作成し各支部・施設に配布した。各施設においては、施設特有の情報等を取り入れたオリジナル版を作成し、職員およびその家族の安全確保に役立てられたい。
  • 中継所でのスクリーニング対応、現地で活動する職員の安定ヨウ素剤の確保等については行政の取り組みと密に調整をはかる必要があり、今後も検討を継続する。
  • 2015年12月に開催された第20回国際赤十字・赤新月社連盟総会における事務総長報告書での原子力災害対応に関する記載内容を報告。総会において日赤から発言した原子力災害に対する対応についてのコメントを共有した。また同時に開催したサイドイベントでの発表・協議内容について共有した。

参考:第20回連盟総会・サイドイベントについて

 セッション2(基調講演)

セッション2(基調講演)

 原子力災害時における医療体制について
 標記について、原子力規制庁 原子力災害対策・核物質防護課 山本企画官より下記の内容でご講演いただきました。

【概 要】

  • 原子力災害対策指針における基本的な考え方(原子力災害対策重点区域、防護措置実施の判断基準(OIL)等)
  • 昨夏の原子力災害対策指針改正後の原子力災害時における医療体制の概要
  • 「原子力災害医療・総合支援センター」と「原子力災害拠点病院」等の役割/支援・協力体制
  • 医療ネットワークの構築に向けた「原子力災害時医療連携推進協議会」
  • 原子力災害対策指針の具体的な運用方策等をとりまとめた関連マニュアルの整備

 緊急時対応の取りまとめにおける内閣府原子力防災の取組
 続いて標記について、内閣府政策統括官(原子力防災担当)林田参事官補佐より下記の内容でご講演いただきました。

【概 要】

  • 原子力災害拠点病院に関して/原子力災害医療の実効性の確保
  • 防護資機材に関して/原子力災害医療拠点病院支援事業
  • 施設の防護措置に関して
  • オフサイトの防災業務関係者の安全確保に関する検討会
  • 訓練への支援

 セッション3(意見交換)

セッション3(意見交換)

 赤十字施設の施設避難等
 標記について、赤十字原子力災害情報センター 山澤センター長より説明しました。

  • UPZ内に所在する日赤病院の施設避難を考える際、初期の屋内退避で不足する職員にどう対応するか、赤十字グループとしてどう支援するかを検討する。
  • 熊本地震で実際に被災しながら、多くの支援者を受け入れて地域の医療ニーズに貢献した熊本赤十字病院の経験を、病院支援受け入れ側に必要な準備の一例として発表いただく。
  • これまでもアドバイザー会議で検討してきた水戸赤十字病院の病院避難計画について共有し、UPZ内の病院に必要な病院避難計画、またはそれに必要な病院支援の体制の構築について論点整理を行う。

 平成28年熊本地震における熊本赤十字病院の医療支援受け入れの実際
 ~原子力災害時の被災地病院支援の一例として~

 標記について、熊本赤十字病院 宮田副院長より報告がありました。


熊本赤十字病院 宮田副院長

熊本赤十字病院 宮田副院長

【一部抜粋】

  • 熊本地震対応については多くの支援、励ましをいただいたこと感謝申し上げる。震災により地域の複数の医療施設が機能停止し、この肩代わりを地域医療という視点だけみても他の病院でしなければならなくなった。こうした地域の病院は発災地に近いということもあり多くの被災者があり、避難についても検討しなければならない状況だった。
  • 当院では、前震時は50%強、本震時は45%のスタッフが自動参集した。スタッフは全員被災しており42%が車中泊や避難所にいる状況であり、住環境、生活環境の悪い中で職員が出勤して傷病者の手当てに当たった。
  • 熊本赤十字病院は地域の中核、急性期型病院で、平常時は地域医療を担っている。同時に基幹災害拠点病院である。こういう状況で、災害が起きた時にどういうことが必要かということが今回の地震で明らかになった。大きく二つの柱があり、一つは病院機能を維持することで、地域における中核病院としての一般患者への対応能力を維持すること。もう一つは、日赤病院として救護班が被災地に出向いて直接被災者対応をするということ。この大きな二つの柱を並行して、相互に連携させながら進める。これができたおかげで地域医療の質と量が維持できた。
  • 病院支援では受援側の負担をどう最小限にするかが肝要である。病院支援コーディネーターの役割が非常に重要であり、今回のオペレーションでは非常にうまく機能した。支援スタッフの配置・勤務管理・オリエンテーション・引継ぎ等も病院支援コーディネーターが取り仕切り、受援側の負担となることがなかった。受援側と支援側を分離させず互いがチームとして機能させるような役割をコーディネーターが担う。
  • 診察の記録・申し送りなど、外から入ってきて短期間で交代する支援側でも業務が滞らずに回せるように、支援側だけの申し送りノートなど柔軟な対応ができる体制を作った。
  • 支援者の適切な必要数は今でもわからないが、スタッフをしっかり休ませる、後片付けができる余裕があるだけの数が必要。また、支援職員の空白期間があると受援側の調整が非常に困難になるため、支援側の職員は切れ目なく派遣されることが重要。
  • 病院支援の受け入れについては、早期の意思決定がよい結果につながった。管理者としては、自施設の職員での機能維持が無理だと思ったら早期に支援を求めるのが正しい。

 原子力災害時の病院避難(屋内退避)における支援について
 標記について、水戸赤十字病院 遠藤脳神経外科部長より報告がありました。

【概 要】

  • 前回の内容に発災からの各部署の役割や動きを時系列に追加した。
  • 屋内退避は、およそ3~7日間を想定しており、この時期に職員の不足が予測される。
  • 医薬品について、平時から業者との提携という案もあったが確約はできないとの返答。
  • 計画案の目指すところは、災害のフェーズごとにアクションカードを作成し、各部署(担当)がそれを見れば何をするかわかるようにし、動きやすくすること。
  • 前項のアクションカードを作るためにも災害マニュアルをきちんと見直していく。

 原子力災害時の病院避難における支援体制の構築について
 標記について、赤十字原子力災害情報センター 山澤センター長が論点を整理し、アドバイザーおよび会議出席者と意見交換を行いました。

【概 要】

  • 原子力災害発生時の救護班活動に関する体制はできている。しかし、原発立地県のUPZ圏内にある施設の病院支援については、まだ整理しなければならない点が多い。
  • 原発立地県で大規模な地震等が発生し、特にUPZ圏内の病院から支援要請があった場合、緊急被ばく医療指定機関等の職員を優先的に派遣するという方向で検討することに合意は得られるか。
  • 支援職員の派遣元は緊急被ばく医療指定機関等とし、入院患者の受け入れ先としては行政からの依頼があった場合を想定して、近隣の日赤病院という方向で施設避難計画を検討したい。

【意見交換】

  • 原子力災害医療体制に位置づけられる施設の中でも、医療協力機関と拠点病院では求められる要件も異なる。また、同じ施設内でも職員の職種や職歴によって原子力災害に対する対応力も変わってくるので、その点には配慮が必要。
  • 原子力災害拠点病院の指定要件ともなっている原子力災害医療派遣チームは、有事には行政の原子力災害医療体制の中での登用が想定されており、日赤の病院支援の人材としては期待できない。
  • 前提として、行政の定める防護措置実施の判断基準に準じて計画することが必要。UPZ圏内の屋内退避中の病院支援であれば、放射性物質放出前か後かで区別して整理する必要あり。
  • 放射能物質放出後のUPZ圏内の防護措置実施については、原子力事故の収束状況・プルームの通過経路・放射性物質の沈着の程度等、様々な条件によって影響を受けるため、画一的にパターン化するのが非常に難しい。
  • 施設管理者としては、放射性物質放出後に空間線量の上がっている地域にスタッフを送るのは安全管理上慎重な判断が求められる。また、このような場合には一般の交通機関・物流等も相当の制限を受けている想定をする必要がある。
  • 病院支援が行える防護措置実施の判断基準(OIL)等を限定したうえで、UPZ圏内の病院支援にかかる検討を引き続き行う。研修・登録方法、派遣条件・判断基準、職員の安全管理等について引き続き検討を行うが、当面対象は日赤の原子力災害医療指定施設職員を想定する。

 セッション4(意見交換)

セッション4(意見交換)

 原子力災害対応検討委員会の設置・開催
 標記について、赤十字原子力災害情報センター 山澤センター長が説明しました。

【概 要】

  • 原子力災害対応検討委員会設置の経緯と意義、構成メンバー案の共有。
  • 原子力災害対応検討委員会に諮って得られた結論を、医療施設長会議等を経た後、社内合意を得る予定。
  • 今年の議題は、原子力災害時の施設避難に関する病院避難計画の検証、被災地赤十字施設への支援スタッフの派遣、病院からの避難患者を受入れる側の指揮命令や受入手続きについて。

 セッション5(意見交換)

セッション5(意見交換)

 東日本大震災後の福島における専門家と一般住民のコミュニケーションの形
 標記について、福島県立医科大学 広報コミュニケーション室長 松井特命教授よりご講演いただきました。


福島県立医科大学 松井教授

福島県立医科大学 松井教授

【一部抜粋】

  • 東日本大震災から1年間は、福島県立医大に正規の広報部署がなかったこともあり、専門家(医師や医療関係者)と、県民とのコミュニケーションが円滑に行えなかった。科学的な事実あるいはオーソライズされていることをいくら丁寧に伝えても、逆に両者の溝が深まった。専門家が、通常得意としている患者さんとのコミュニケーションに加えて、社会とのコミュニケーションが求められる場に直面したと言うことができる。現場でも、科学の手法では不安を取り除けない事実を実感した。どんなに科学的根拠に乏しい主張であっても、まずは相手の主観や価値観の側に自分を置いて同じ方向を向くという、相手を知る姿勢・努力が重要である。科学的事実を話して説き伏せるような姿勢を見せた瞬間に、コミュニケーションは破綻し、相手はガードしてしまう。
  • 現在、「放射線に関する相談」が減少傾向にあるのは、不安が解消されているのではなく、周囲の目、関心を気にして相談をためらっているからであることが、よろず健康相談会での住民への個別の対応を通じて感じられた。
  • 相談での具体的なやり取りの記録を振り返っても、完璧に適切に科学的な答えをきちんと返しているわけではなく、そもそも返すこと自体できないことがわかる。いくら「適切に科学的な情報を丁寧に説明する」とマニュアルに書いてあっても、現実ではマニュアルどおりにいかない。
  • メリットだけではなく、デメリットもきちんと伝えなければならない。コミュニケーションの目的は、相互の信頼関係の構築にある。

 セッション6(意見交換)

セッション6(意見交換)

 原子力災害における被災者コミュニケーション
 標記について、赤十字原子力災害情報センター 志波参事が論点を説明し、アドバイザーおよび会議出席者と意見交換を行いました。

【概 要】

  • 日赤の「被災者コミュニケーション」は、救護班本来の目的である医療救護活動を支障なく行えるようにするための、被災者とのコミュニケーションであること。災害発生後に原子力事業者や国・行政が行うリスクコミュニケーションとは役割を整理する。
  • 基本方針、場面・状況設定、課題について、抜け漏れや設定に無理がないか等を確認したい。場面として検討範囲に含めるべき状況、直面する課題には他にどのようなものが考えられるか。
  • 対象フェーズを「発災直後の混乱期」、「避難行動が落ち着いてくる時期」、「避難生活が確立し始める時期」、「将来の生活の見通しを考える時期」の4つに分類した。日赤の救護班の活動が想定されるフェーズ・場面を抽出し、それ以外は場面設定から外した。
  • 成果物の作製に向けて、本日の協議に合わせてメール等でもご意見をいただきたい。

【意見交換】

  • 現時点では対応方針が確定していない活動(救護班による救護所でのスクリーニング等)については、将来的には対応する可能性も含めて場面設定する必要がある。
  • 被災者コミュニケーションにかかる想定問答集を準備するのに合わせて、支援者側のこころの負担を減らすための問答集も準備するとよい。派遣前の救護班が短時間で確認できるような資料を想定。
  • フェーズの設定については、避難生活の長期化も見据えて、時間とともに変化する被災者の心情に対応できるように配慮すること。行政や地域の専門家との連携や役割分担も考慮するとよい。
  • 科学的、学問的に証明されているデータは提示し、被災者の不安解消に役立てる。ただし、科学的に証明されている事項の回答範囲や方法に関しては、成果物作製にあたって十分に留意する。

 セッション7(意見交換)

セッション7(意見交換)

 第4ブロック主催の原子力災害対応基礎研修会について
 標記について、救護・福祉部 山本救護課長が説明し、研修会の実施方法・講師依頼方法・研修参加者要件等についてアドバイザーと確認しました。