平成27年度 第2回日本赤十字社
緊急被ばく医療アドバイザー会議について

2016/01/28

 日本赤十字社(以下、日赤)は、2015年12月3日~4日の日程で「平成27年度第2回日本赤十字社緊急被ばく医療アドバイザー会議」を開催しました。会議には、各赤十字医療施設において「緊急被ばく医療アドバイザー」等に委嘱されている医師や診療放射線技師が参加し、日赤の原子力災害における救護体制の構築について話し合われました。

1. 緊急被ばく医療アドバイザー会議開催の背景(今回の会議までの経緯)


 日赤は、福島第一原発事故の教訓を踏まえ、2015年3月「原子力災害における救護活動ガイドライン」(以下、ガイドライン)を策定しました。また、将来起こるかもしれない原子力災害に備えるため、全国の支部・施設に個人線量計等の放射線防護資機材を整備するとともに、救護班を対象とした原子力災害対応基礎研修会も開催しました。
 これらの取り組みに加え、原子力災害に適切に対応できる体制を構築するため、昨年8月26日に「緊急被ばく医療指定機関等担当者による意見交換会」を開催し、その会議を発展させた平成27年度第1回緊急被ばく医療アドバイザー会議を2015年7月22日~23日に開催しました。
 日赤の「緊急被ばく医療アドバイザー」(以下、アドバイザー)は、本社や支部の災害対策本部で原子力災害時の活動展開方針を決める際の助言や、活動従事者の被ばく線量の管理などを担います。
 今回の会議では、前回の会議でも課題提起のあった活動従事者の健康維持に関する意見交換や原子力災害時の病院避難計画の検討、原子力災害時の日赤による国際的な支援のあり方などについて活発な話し合いが持たれました。

2. 第2回緊急被ばく医療アドバイザー 会議プログラム


 プログラムの詳細は「平成27年度第2回緊急被ばく医療アドバイザー会議議事次第」[PDF]をご覧ください。

3. 会議の概要


セッション1(意見交換)
活動従事者の安全を確保するための運用

 標記の件について、本社救護・福祉部 山澤災害対策企画室長より説明がありました。


緊急被ばく医療アドバイザー会議 会場の様子

緊急被ばく医療アドバイザー会議 会場の様子

【概要】
 将来、原子力災害が生じた場合に、被災地に居住する職員の安全性を確保しながら、継続的な救護活動を行うために、被災地の施設管理者は教育等を通じてスタッフの健康維持に配慮する必要がある。そのため、被災地の施設管理者としてのスタッフの健康維持に関する「原子力災害時の被災地職員・スタッフの健康維持に関する運用の手引き(仮)」の内容(①日常的な被ばくの抑制と管理②不安やストレスへの対応③身体の健康管理)が共有された。加えて、スタッフ向けのハンドブック案(A4サイズ16折)についての検討が行われた。

以下のような意見があった。

  • 原子力災害発生時のアクションカード(※1)を作成してはどうか。
  • 福島県立医科大学の長谷川先生より、原子力災害時の医療機関の事業継続に関する研究報告書の紹介があった。
  • スタッフ向けのハンドブックは、非被災県等から参集するスタッフにも参考にしてもらいたい。

引き続き、アドバイザーからの意見を頂きながら検討を進める。

※1 アクションカードとは:緊急時に集合したスタッフに配布される職種・役割に対する具体的な行動が記載されたカード。災害時に限られた人員と医療資源で、出来る限り効率よく緊急対応を行う事を目的としている。

セッション2(基調講演)
放射線災害の反省と現在の取り組み“地域で働く一救急医の視点から”

 標記の件について、福島県立医科大学 放射線災害医療学講座 長谷川教授が講演されました。


基調講演講師 福島県立医科大学長谷川先生

基調講演講師 福島県立医科大学長谷川先生

【概要】
 東日本大地震で原子力災害に直面した福島での私自身の経験から、現在の課題や取り組みまでを話したい。
 発災当時、緊急被ばく医療指定機関である福島県立医科大学でさえ、累積被ばく線量の具体的な数値が、身体へどのように影響を及ぼすのか正確に把握出来ていない状況だった。原子力災害への不安が、科学的な根拠や論理的な判断に勝ってしまい、現実に向き合う事が難しくなっていた。
 この時期に、当大学では外部の専門家を招いて、「クライシス・コミュニケーション(※2)」の機会を得た。今、何に直面し、何に困っているのか。各自、包み隠さず話し意識の共有をする中で、原子力災害医療は専門外という認識から、自分の問題であり自分で対応するという現実に向き合った認識に変わっていった。
 災害当初は、調整業務や患者に対する治療についての問題が中心であったが、時間が経つにつれ問題に変化が生じてくる。現在、福島で医療に携わっている私自身が強く思うのは、被ばく医療とはいえ特別なものではなく、通常の医療の応用であり、災害医療のひとつであるという事である。現在の福島に必要な医療とは、地域医療であり、予防であり、福祉である。
 また、現在の福島をめぐる放射線による健康への影響に対する考え方の違いは、リスクに対する認知の多様性によるものであると思う。私たちはリスクのないところにおらず、常に何らかのリスクに直面している。望ましくないものも含めて、関わり合いながら受け入れて生きていく事が、私たちの生きている世界なのではないだろうか。つまり、最終的には個人が自ら判断する力を養う事が、一番重要であると私は思う。
 今回の福島原発事故において、自身も含めて最も問題であったことは、原子力災害に対して意識や関心が低く、他人事になり、自ら対策を取らなかったということではないか。
 同じ過ちを後世に繰り返さないよう、今後も自身の経験を伝えていく活動を続けていきたい。

※2 クライシス・コミュニケーションとは:非常事態の発生によって企業が危機的状況に直面した場合に、その被害を最小限に抑えるために行う、情報開示を基本としたコミュニケーション活動のこと。

講演に対して、以下のような質問があった。

  • クライシス・コミュニケーションについて詳しく教えていただきたい。
    (長谷川)福島県に専門家が支援に入ってくれた、という事だけで大きな影響があった。チームが共通して考える場を持ったことが大きかったと思う。
  • 一般住民からは、いまだに不安だという声や、「本当に安全と言い切れるのか」という厳しい指摘を受けることがある。どのように一般住民の不安を埋めていったらよいか。
    (長谷川)個人の背景も含めて個別に話を聞く中で、本人が考え納得するしかないのではないだろうか。自分自身で情報に触れ、リスクを自分で決めるという事が大切なのではないだろうか。

セッション3(意見交換)
赤十字施設の施設避難等

 標記の件について、以下の病院から取り組み状況の報告がありました。

各病院の報告概要は、以下の通りです。

A病院
 院内検討チームが中心となり、避難計画を策定した。現時点では、県内の一次避難に対応する計画であり、今後は中長期的な対応をにらんだ県外への二次避難、三次避難の検討が必要と認識している。患者避難の受け入れ調整・患者搬送に関すること、職員の安全管理に関すること、屋内退避時の物資の確保に関すること等の課題意識が共有された。

B病院
 県の避難マニュアルの策定実態について課題認識が示され、災害時に有効に機能するための避難計画とするためには、引き続き改定が必要であると提起された。県の取組として、入院患者への実態調査をもとにした広域避難のシミュレーションや避難計画が策定されていることが共有された。新病院への移転の際には多数の車両も使用するため、病院避難の訓練にもなると思われる。この機会を今後の病院避難計画作成に有効活用できればと思う。

C病院
 病院の現状と、県の原子力災害対策の現状について共有がなされた。当病院では、入院患者の実態を調査して、避難シミュレーションを基に病院避難マニュアルの検討行っている。この中で明らかとなった課題として、患者の避難優先順位の検討や職員の避難、全国の赤十字病院からの患者受入を含んだ支援等について共有がなされた。

3病院の報告をうけて、救護・福祉部 山澤災害対策企画室長より、赤十字施設の病院避難等に関する検討フレーム案が提示され、病院避難等に関して、以下のような意見交換がなされました。

広域医療搬送の考え方について

  • 避難指示区域外に医療中継地点を置き、自衛隊が区域内、DMATが避難指示区域外の搬送をする。避難指示区域外に設置されたSCU(※3)から他の都道府県を含めた医療機関へと広域医療搬送するという福島モデルについて、ぜひ全国で認識を共有できるように展開していただきたい。
  • 福島モデルの広域医療搬送については、東日本大震災を受けての計画であり、他の案も検討すべきではないかという意見も出ている。福島県内では、受け入れ先計画を含めた具体的な病院避難計画がないのが現状である。

病院避難と屋内退避について

  • UPZの内側にある施設では、屋内退避が出来るように、施設整備のための補助金が受けられるようである。安全面の配慮を調査の上、大きな病院については、屋内退避する方向で検討が進められてもよいのではないか。
  • 病院避難の課題は、行政の検討する枠組みでの対応が前提である。日赤は搬送等の機能を有さないので、病院避難は日赤だけでは実施できない課題である。また、病院避難というより、病院での屋内退避が課題になる可能性もある。このため、緊急被ばく医療アドバイザーのいる病院間では、合意形成を行って災害時の相互協定を締結するなどの備えを検討する必要がある。さらに、他の病院からの支援が有効に機能するため、支援を受ける病院側のニーズと支援する側のマッチングも必要となる。

※3 SCUとは:Staging Care Unitの略。 広域搬送拠点臨時医療施設などと表記される。

セッション4(意見交換)
日赤による国際的な支援

 標記の件について、本社救護・福祉部 山澤災害対策企画室長より説明がありました。

【概要】
 「原子力災害における救護活動ガイドライン」において、日赤の経験を国際的に活用する方針が示されている。具体的には、原子力災害に関する情報の収集・発信(日・英)や、日赤緊急被ばく医療アドバイザーの被災国への派遣、資機材の提供等が記述されている。
 これまでの貢献として、国際赤十字・赤新月社連盟(以下、連盟)主催赤十字関係国社会議の開催支援(福島で開催された第3回関係国会議)や連盟版原子力災害ガイドライン策定への協力を行ってきた。連盟の原子力災害関連プログラムに対しては、財政的支援も行っている。また、国際原子力機関(以下、IAEA)の会議(「放射線災害時のメディカルフォローアップガイドライン策定準備会合」への参加)、海外姉妹社の研修等への職員派遣(イタリア赤十字社サマースクール(研修)への職員派遣)を行って、国際的な情報発信やネットワーク作りに貢献している。
 今後日赤に期待される活動として、基本的には連盟の原子力災害関連プログラムにおいて、連盟担当部署とともに主導的役割を発揮することが考えられる。
 現時点では、語学の問題や整備不足などがあり実現が難しいものも含まれるが、日赤に対する期待を実現するために何が必要かを検討して取り組む必要がある。

国際部より以下のような補足説明がありました。
 緊急被ばく医療アドバイザーが職務に専念できるよう、英語によるコミュニケーションや現地調整等については、別のスタッフが担当するような仕組みも考えられる。必要なことがあれば、国際部からも支援していく。

セッション5(意見交換)
被災地住民に対する赤十字の支援(スクリーニングの実施に関して)

 標記の件について、本社救護・福祉部 山澤災害対策企画室長より説明がありました。


スクリーニングについて質疑応答

スクリーニングについて質疑応答

 これまでの議論の中で、避難退域時検査(以下、スクリーニング)に関して、日赤も支援を検討すべきでないか、といった課題意識が提示されている。
 原発立地県や隣接都道府県レベルで、原子力災害対応計画が策定されている中、スクリーニングの実施体制、スクリーニングポイントの設置場所、証明書発行の有無等、細かな点で違いがあるものの、スクリーニングの実施プロセスに大きな差はない。スクリーニング実施に対する日赤の専門チームの育成や派遣等も検討の余地がある。

被災地住民へのスクリーニングの実施に関して、以下のような意見交換がなされました。

スクリーニング後の証明書の発行の有無について

  • スクリーニングポイントで、証明書の発行がない場合、スクリーニング結果を自己申告に頼ることとなる。証明書の発行無しの場合には、避難所でもスクリーニングすることを検討する必要があるのではないだろうか。
  • スクリーニング証明書の発行がない場合、避難所で被災者を受け入れるための基準を検討する必要があるのではないか。日赤が独自に基準を設定する可能性も含めて検討すべき課題ではないか。
  • スクリーニング証明書の発行や避難所で被災者を受け入れる基準については、原子力規制庁の基準で指針が示されている。各都道府県は指針に従って訓練を実施しているはずである。しかしながら、本日の発表を伺うと、証明書の発行の有無などは各地域で対応に違いがあり、引き続き詳細の確認が必要である。なお、事故の状況や時期によって、証明書の発行や避難所での被災者受け入れの基準など対応が変わる可能性があるのではないだろうか。

避難所における日赤救護班によるスクリーニングについて

  • 福島の事例では、一時帰宅やレクリエーションでの外出後等にもスクリーニングを受けていた。まずは避難所に設置された救護所で、スタッフが安心安全に活動できる環境を確保するために、スクリーニングはどうあるべきかという視点から検討すべきではないか。
  • 避難者へのスクリーニングの目的が救護班の安全を確保するためであれば、避難者へのスクリーニングを行う以外の方法でも安全確保は可能である。活動従事者は個人被ばく線量を測定しているため、空間線量率の測定によっても把握が可能。超急性期には、ある程度柔軟な対応や考え方が必要である。
  • スクリーニングは行政の枠組みで実施するものであり、日赤が主体的に関与するのは難しい。避難所運営の主体も行政であり、各県の取り組みを受けて、日赤が関与すべき事項ではないか。それを受けて全国レベルで展開すべきものがあれば、取り入れていくという対応で良いと思われる。
  • 中継地点でのスクリーニング対応は、行政の枠組みに従う中で診療放射線技師を派遣することを検討したい。中央でも地方でも、日赤は診療放射線技師を主体とした支援を行う余地があることを説明し、認知してもらう。一般避難所等での応急的な活動については、応急対応の能力を持った方が急性期の対応として臨時的に対応することも今後の検討の一つであると思う。

診療放射線技師の役割と養成について

  • 中継地点でのスクリーニングポイントでの活動が、主に汚染の有無を判断することであるならば、診療放射線技師のみの派遣でよいのではないか。一方で、医師や看護師は、避難所等へ派遣することとして分けて考える方が全体としては効率的ではないか。また、日赤がスクリーニングチームを派遣する用意があることについて予め行政に対して調整を行っておけば、災害時の派遣がスムーズに進むのではないか。
  • 診療放射線技師会としては、国際的な支援および国内の災害支援として、スクリーニングチームの養成を検討中である。また、日赤の原子力災害対応基礎研修会の講義のレベルを今後はもう少し上げるべきではないかとも考えている。

セッション6(意見交換)
原子力災害における救護活動基準等の修正について
平成28年度原子力災害対応基礎研修会の開催について

 標記の件について、本社救護・福祉部 白土災害対策企画室参事、藤井主査より説明がありました。

原子力災害における救護活動基準等の修正について

 事務局より、原子力災害対応基礎研修会と「原子力災害における救護活動ガイドライン」の内容、さらに緊急被ばく医療アドバイザー会議での意見を踏まえて、「原子力災害における救護活動基準」及び「原子力災害における救護活動マニュアル」の修正案が提示された。

 主な修正ポイントは以下の3点である。

  • ① 「原子力災害における救護活動ガイドライン」との整合性をはかること。
  • ② 緊急被ばく医療アドバイザーの役割について、これまでの議論等を踏まえた内容に修正すること。
  • ③ 本社で実施した原子力災害対応基礎研修会の内容を踏まえて、研修会用のスライドを添付すること。

 修正点等の説明に加えて、事務局から今後の修正にかかるスケジュール案が提示された

平成28年度原子力災害対応基礎研修会の開催について

 平成26年度より原子力災害対応基礎研修会は本社を会場に年2回開催されているが、平成28年度からは各ブロック主体での開催を予定している。講師の調整等については引き続き本社が支援を行う予定である。

以下のような意見交換がなされました。

  • 緊急被ばく医療アドバイザーの活動場所は、本社災害対策本部や被災地支部災害対策本部以外の場所も想定されるのではないか。
  • これまでの研修会では、被災地への支援をするために必要な教育プログラムを開発してきた。今後は国内外からの人的・物的支援を受け入れるためのグループワークも検討すべきではないか。