• 原子力災害に備える取り組み

原子力災害に備える取り組み

 日本赤十字社(以下、日赤)は、2011年3月11日に発生した東日本大震災とそれに続く東京電力福島第一原子力発電所事故(以下、福島第一原発事故)における福島県内での救護活動の経験・教訓を踏まえ、今後発生するかもしれない原子力災害への備えに取り組んでいます。ここでは、その背景と内容について説明します。

1. 原子力災害への備えに取り組む背景


 日赤が、将来発生するかもしれない原子力災害への備えに取り組んでいる背景として、主に以下のことがあげられます。

  • 福島第一原発事故における活動の経験と教訓
  • 赤十字の使命と原子力災害対応に取り組む法的根拠
  • 世界の原子力発電の見込み
  • 国際赤十字・赤新月社連盟総会での決議
  • 福島第一原発事故における活動の経験と教訓
  • 赤十字の使命と原子力災害対応に取り組む法的根拠
  • 世界の原子力発電の見込み
  • 国際赤十字・赤新月社連盟総会での決議

(1)福島第一原発事故における活動の経験と教訓
 2011年3月に発生した福島第一原発事故においては、福島県に展開していた県外からの日赤救護班が一時撤退を余儀なくされるなど、日赤の活動は必ずしも十分なものではありませんでした。その主な理由として、「放射線に関する知識が不足していた」、「放射線防護のための資機材が不足していた」、「放射線下での活動における基準が欠如していた」ことがあげられます。これらの教訓をもとに、原子力災害に備えて適切な対策を取ることの重要性を認識しました。

参考:福島第一原発事故における日本赤十字社の救護活動

(2)赤十字の使命と原子力災害対応に取り組む法的根拠
 日赤は、赤十字の使命である「人道の実現」を達成するために、原子力災害時においても被災者の救済を行うべきであると考えています。日赤は「災害対策基本法」で規定された「指定公共機関」に指定されており、日赤としての防災計画を作成することや、この計画にもとづき国や自治体などと協力して災害発生時の対応や、被害の最小化を行う義務があります。また、「原子力災害対策特別措置法」では、指定公共機関である日赤は、原子力災害に対して関係機関(国・地方公共団体・原子力事業者・他の指定公共機関など)と協力して対応にあたることが規定されています。このため、日赤には原子力災害対応に取り組む責務があると考えています。

(3)世界の原子力発電の見込み
 国際原子力機関 (International Atomic Energy Agency: IAEA) による、世界の原子力発電の見通しでは、2030年までに、低めに見積もって約2.4%、高めに見積って約68%の増加を予測しています。これは、100万kw級の発電用原子炉が、9-256基増えるとの予測です。特に、東アジアでの大きな伸びが予測されています。新たに原子力発電所の導入を計画している国もあるという現実のなか不測の事態に備えるということは、原子力事故を経験した国の赤十字社としての責務であると考えています。

(4)国際赤十字・赤新月社連盟総会での決議
 国際赤十字・赤新月社連盟 (IFRC) は、2011年11月にジュネーブで開催された第18回総会で、IFRCや各国赤十字社が原子力災害の被災者救援に役割を果たすことなどを盛り込んだ、「原子力事故がもたらす人道的影響に関する決議」を採択しました。日赤はこの決議に基づき、将来起こるかもしれない原子力災害への備えに取り組む決意をしました。

2. 日赤の原子力災害に備える取り組み


 日赤の原子力災害への備えの柱は、「活動従事者の安全確保」、「原子力災害対応のための体制の強化」、「原子力災害対応のための人材育成」そして「原子力災害に関する情報収集と発信」です。これらの取り組みを推進するために赤十字原子力災害情報センターを設立し、本社・各支部・各施設などとの連携を進めながら、「原子力災害における救護活動マニュアル」(以下、マニュアル)や「原子力災害における救護活動ガイドライン」(以下、ガイドライン)の作成 、デジタルアーカイブによる情報発信などを行ってきました。

参考:原子力災害におけるガイドラインのページ

(1)活動従事者の安全確保
 日赤は、将来起こるかもしれない原子力災害に適切な対応ができるように、救護活動を行う地域を国や自治体などが定める「警戒区域」外とすることや、救護活動中の救護班要員の累積被ばく線量を1mSv以下にするなどの行動基準を、マニュアルやガイドラインの中で明確に定義しました。また活動従事者の安全を確保するため、放射線防護のための資機材の整備を進めてきました。デジタル個人線量計(活動従事者の被ばく線量を測定)、電離箱式サーベイメーター(活動地域の空間線量率を測定)、GMサーベイメーター(体の表面の汚染を測定)、放射線防護服セット(放射性物質の体内への侵入を防止)を、本社および全国のブロック・支部に配備しました。

※日赤では、全国の支部・施設を地域ごとに6つのブロックに分けています。資機材の種類により、プロックの代表支部へのみ配備しているものがあります。

(2)原子力災害対応のための体制の強化
 原子力災害に備えるため、日赤では原子力災害対応のための体制の構築と、国内外の関係機関との連携強化を進めています。
 日赤では、自然災害などと同様に、大規模災害発生時や発生の恐れがある場合は、「災害救護実施対策本部」(以下、災対本部)を本社や被災地の支部に設置し救護体制をとります。これに加えて原子力災害の場合は、被災地への救護班の派遣を行う前に本社および支部に、「緊急被ばく医療アドバイザー」を配置します。
 緊急被ばく医療アドバイザーには、日赤の緊急被ばく医療指定機関や関連医療機関の医師や診療放射線技師が事前に任命されています。緊急被ばく医療アドバイザーは、原子力事故の状況や活動予定地域の環境などの情報をもとに、本社や支部の災対本部に対して活動方針や活動従事者の安全確保に関する助言を行います。
 また、国際赤十字・赤新月社連盟、政府や自治体、国際機関、国内外の専門機関や研究機関などと連携を行いながら、体制の強化に努めています。

参考:国際赤十字・赤新月社連盟の原子力緊急事態への取り組み

(3)原子力災害対応のための人材育成
 原子力災害に対応するためには、その体制を担う人材の育成が欠かせません。日赤では、原子力災害対応に重要な役割を担う放射線の専門家の育成と情報交換のために、「緊急被ばく医療アドバイザー会議」を開催しています。また、救護活動を担う全国の赤十字病院の医師・看護師・診療放射線技師・事務職員や支部職員で構成される救護班要員に、「全国赤十字救護班研修会」と「原子力災害対応基礎研修会」を実施しています。

原子力災害対応のための人材育成:救護班要員に対する研修会

 「全国赤十字救護班研修会」では、日赤の災害医療資源を活かして急性期の災害医療対応ができる救護班要員の育成を目的として、災害医療の考え方、急性期の対応に必要なスキル(トリアージ・救護所の設置・ロジスティックス・機材の使い方など)習得のための講義・グループ討議・実習を行っています。
 「原子力災害対応基礎研修会」では、救護班が放射線環境下で安全かつ安心して活動に従事できることを目的として、放射線・放射線防護・緊急被ばく医療に関する基礎知識、放射線防護のための資機材の使用方法、救護活動時における被ばく管理などについて、講義・グループ討議・実習を行っています。

緊急被ばく医療アドバイザー会議について
原子力災害対応基礎研修会について

(4)原子力災害に関する情報収集と発信
 福島第一原発事故発生時、日赤には原子力災害発生時の活動における行動基準・安全基準が整備されておらず、原子力災害に関する十分な情報がなかったことからその活動に制約が生じました。今後は原子力災害の発生に備えた準備が必要であり、そのためには活動実績や経験で得られた情報を対外的に発信していくことが重要と考え、2013年10月に日赤本社内に赤十字原子力災害情報センターを設立しました。同時に、情報発信の目的を実現するための手段として、デジタルアーカイブシステムを構築しました。また、原子力災害に関する情報を日赤内外の皆さんと共有するため、「企画展」を作成したり「赤十字原子力災害セミナー」を開催したり しています。

3. 国際赤十字・赤新月社連盟の取り組み


 国際赤十字・赤新月社連盟(以下、連盟)は、福島第一原発事故の後、2011年11月に開催された第18回連盟総会において「原子力事故がもたらす人道的影響に関する決議」 を採択しました。連盟ではこの決議を具現化するために、「原子力・放射線災害における事前対策および応急対応ガイドライン」の策定とともに、各社の体制構築を支援する「サポートツール」の開発などを進めてきました。

 連盟の「e-ラーニング」は、連盟が開発したWebベースの学習用プラットフォームで、利用するには登録が必要です。利用者はログインしたあと学習コースを選択でき、例えば「原子力緊急事態への備えのための基礎コース」では、災害発生後に被災国の赤十字社へ派遣される緊急保健スタッフという役割での学習ができます。ラーニングプラットフォームのページへは、下記バナーをクリックしてください。

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